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 TOP小説私心伝心>「怪物姫」




「 怪物姫 」

■■1

 昔々あるところに、心優しく慈悲深い民の住む美しい王国がありました。
その国の王様と王妃様は、国中の誰よりも心優しく慈悲深い方でしたが、お気の毒なことに、お子様が一人もいらっしゃいませんでした。王妃様の生来のお身体の弱さが祟ってか、生まれるお子は、みな死産でしたのです。

 王妃様は祈りました。
「ああ、どうか、死なない子供をわたくしにお授けくださいまし」
 王妃様は来る日も来る日も天に祈り続けました。

「その願い、聞き届けて差し上げよう」
 ある日、お城の塔のてっぺんに舞い降りた一羽のカラスが言いました。
「但し、生まれる姫君は『怪物姫』と呼ばれるだろう」

 鴉の言葉通り、王妃様はその後、真っ白な肌と、宝石のように輝く蒼い瞳。愛くるしい金色の巻き毛をした、玉のように美しいお姫様を授かりました。但し、お姫様の頭には、細く曲がりくねった二本の醜い角が生えていました。

 子供を授かった喜びもつかの間、王様と王妃様はたいそう嘆き悲しまれました。お姫様に生えている角が、あまりにも醜く、まるで悪魔の角のようだったからです。

 王様と王妃様は、お姫様を高い塔のてっぺんでこっそりとお育てになることにしました。きっと、鴉の言葉通り、『怪物姫』と呼ばれるであろう、お姫様が不憫でならなかったからです。

■■2

 お姫様は秘密裏に。しかしとても大切にすくすくと塔の中で育ちましたが、誰一人お友達が居ませんでした。ただ、時折やって来るのは、高い塔の窓へと舞い降りる鴉の姿だけでした。

「ねぇ、鴉。どうしてお前はわたしの事を『怪物姫』と呼ぶの?」
「それは、貴女に醜い二本の角が生えているからですよ」
「他の人には誰も角が生えていないの?」
「そうですよ。この世で角が生えているのは『怪物姫』、貴女だけです」

 怪物姫はとても哀しくなりました。鴉が一声、カア、と鳴いて、飛び去った後も、しくしく泣いておりました。

「何故泣いているのです?」
 王妃様が心配して、お訊ねになりました。
「妾が『怪物姫』だからです」
 怪物姫は答えました。

 王妃様は、たいそう驚かれ、そしてお嘆きになりました。王妃様は重い病になって、床についてしまわれました。
 王様も、この事態に、たいそう心を痛められました。王様は国で最も高名な賢者に、知恵をお求めになりました。

 賢者は、『怪物姫』の話を知って、驚きましたが、彼もまた、心優しく慈悲深い民の一人でしたので、怪物姫の事をたいそう不憫に思いました。賢者は三日三晩知恵を絞って、王様にこう申し上げました。

■■3

「王様、妙案がございます」
「申してみよ」
「確かに姫様の頭に生えた角は、たいそう醜いものです。よって、それを見た者は皆、姫様を『怪物姫』と呼ぶでしょう」
「おお、何と哀れな姫か……」
 賢者の言葉に、王様は頭を抱えられました。王妃様はきっとこのままでは哀しみのあまり、死んでしまわれることでしょう。

「お待ちください。ですから、見なければ良いのです。見えなければ、角はあってもないものと同じ。誰も姫様を『怪物姫』などとは呼びますまい。簡単なことです。ほれ、このようにすれば宜しい」
 国で最も高名な賢者は、そう言うと、自分の両眼を針で刺して潰してしまいました。国一番の賢者は目が見えなくなりました。

「なるほど。妙案」
 王様もそう言うと、賢者に続いて、ご自分の目を潰しておしまいになりました。

■■4

 この噂は、やがて国中に広がりました。心優しく慈悲深い民は、皆、心を打たれました。
「王妃様も病床の中で、我が子のために目を潰しておしまいになったそうだ」
「何と心優しい方々だろう。わたしはこの国の民であることを誇りに思う」
「おう、わたしもだ」
「わたしもよ」
「我々も、姫様の醜い角を決して見ることのないように、目を潰してしまおうではないか」


 こうして、心優しく慈悲深い民の住む美しい王国に、目開きの者は誰も居なくなりました。
 怪物姫は、塔の外を普通に歩けるようになりました。誰も姫を『怪物姫』と呼んだりする者はありません。


 王様も王妃様も賢者も国民も、みな、それを心から嬉しく思いましたが、いつしか、国は汚く荒んでいきました。
 何故なら、怪物姫以外、この国には誰も目の見える者が居ないからです。作物を育てる者が居なくなり、家畜を養う者が居なくなり、やがて食料も尽きました。飢えと病に、次々と人々が倒れましたが、それを診る医者でさえ既に目を潰した後なのでした。

■■5

「なぜ、みんな死んでしまったのかしら?」
 誰も動く者の居なくなった国を、高い塔の窓から見下ろしながら、怪物姫は言いました。
「怪物姫、人はただ心優しく慈悲深いだけでは生きていけぬものなのです」
 鴉が漆黒の羽を羽ばたかせながら答えました。
「妾はそうではないのかしら? だから、妾は死なないの?」
「怪物姫、貴女は決して死にませんよ。死なぬ子供を授かることが王妃様の願いだったのですから。貴女の心は真っ白です。私の羽の色とは正反対に」

 怪物姫はもう一度、窓の外を見遣りました。心優しく慈悲深い民の住む美しい王国は、もう何処にもありません。


「怪物姫、私と共に行きますか?」
「何処へ?」
「貴女の望む所。何処までもお連れ致しましょう」
 そう言って、鴉は漆黒の翼を大きく広げました。怪物姫と鴉は、何処へともなく、遠く飛び去っていきました。

 END--------------------------  怪物姫




■■後書き

 かなり昔に書いたものが出てきたのデ、お目汚しかと思いつつ公開。
 ただそれだけ。枯れ木も山の賑わい。


宇苅つい拝

タイトル写真素材:【clef】



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