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終わったのかどうか・・・ 荻窪の宮
- 2001/04/25(Wed) 10:28:27 No.124 <HOME>
「ん・・・なにしてんだ」
「優しく抱きしめてんのよ。・・・お兄ちゃん」
アイツはプッと吹き出した。
「俺たち同い年だろ」
「そうだけど・・・」
二人は何も言わず一つになったまま動かなかった。
お互いの鼓動が肌を通して直に感じられる。
私は抱きしめたアイツの身体を離したくなかった。
何となくこのままずっと抱きしめていたかった。
ずっと・・・。
「おはよっ!」
翌日の学校。
私は朝からドキドキと胸が高鳴っていた。
アイツに会うんじゃないかと、そればかりが不安だった。
会うと冷静でいられないかもしれない。
今までは幼馴染で、同性のような感情を抱いていたが、昨日のアイツの優しい表情は今までと違った。
目を細めて微笑み、私の頭を黙ってくしゃくしゃにした彼の表情は、心底嬉しそうで・・・私の胸は高鳴ってばかりだった。
どうしよう。
周囲の友達に変に思われないだろうか。
昨日までの堂々とした私の態度が一転している。
こんなの、いつもの私じゃないよ・・・。
そんな不安を抱えたまま、学校での1日を過ごした。
いつもの部活。
練習の合間、重い道着を脱いだ私は、道場の横のベランダに行く。
今日の私は今一つ虚ろだ。
普段は心地よく感じるベランダの風が私に重くのしかかっているよう。
アイツのことが気になるからだろうか。
アイツ・・・。
ふと後ろのガラス戸の中の道場を見ると、アイツの姿は無かった。
さっきまではいたのに・・・。
ひょいと肩をすくめて正面を向くと、私の横のベランダの手すりにもたれ掛かっている一人の男・・・アイツがいた。
「おたく、今日冷たくない?」
道着を下に置き、夜風を心地良さそうに受けている彼の姿に私はドキッとした。
「冷たくなんかないもん! いつも通りだもん!」
思わずむきになって答えてしまう。
「それが冷たいんだってば。・・・長い付き合いになるんだぜ。マジでよろしくな」
「うん・・・」
うつむきかけた私の顔を、アイツの手がふっと上向きにさせた。
「いつものお前らしくねえぞ。そんな顔してると・・・キスしちまうぞ」
「え?」
驚いた私の顔を見て、アイツはパッと手を離した。
「冗談じゃないぞー。お前のいつものイイ顔が俺は好きなんだぜ」
私は黙って彼の顔を見つめた。
彼は小声で、
「じゃあ・・・今日は一緒に帰ろうな」
と言い残し道場に戻って行った。
何だか心が軽い。
これから始まる毎日はいつもより、ずっとずっと楽しいものになりそうだ。
それがアイツがいるから、なんてことは恥ずかしくて認めたくないけど、でも。
ふわっと夜風が私の頬を舞った。
今日初めて、風が気持ち良く感じた。
アイツ・・・好きだよ。
私はそう心に呟いて、元気良く道場に戻って行った。
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