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 TOP小説COLOR>「殺した女」




「 殺した女 」

■■

 殺した女が帰ってきた。
 帰ってきた、という言い方は正確ではないだろう。何故なら今、モエの死体は冷凍庫の中。カチカチに凍りついているからだ。そういう意味ではモエはずっとここに居たし、同時に何処にも居なかった。

 そんなモエが生きてた時みたいにポツンとソファーに座っていたのだ。突然殺してしまったのでこいつも驚いたかもしれないが、そんな女が帰ってくれば俺だって驚く。死ぬほど驚く。声もない俺に半透明のモエは、
「やっぱり帰って来ちゃったよぉ」と、あやふやな顔で笑って見せた。


 肉体は細切れにされて冷凍庫の中。そして魂はソファーの上。相変わらずポツネンと座ってやがる。触ろうとしたがダメだった。俺の腕はモエを擦り抜ける。無性に撫で回したくなった。犯したい。
「なぁ、脱げよ」
「いいよ」
 嫌がるかと思ったが、モエはあっさりと胸のボタンに手を掛けた。自分で編んだ目の不揃いなセーターを脱ぎ、俺が買ってやった安物のブラウスの前をはだけた。殺した時と同じ服だ。せめて、お気に入りの服を着ている日に殺してやれば良かったな。

 モエの乳房は子どもみたいだ。小さくて青白い血管とアバラが薄く浮いて見える。やわい感触は覚えている。丸い膨らみを見つめたまま自分を弄った。息が弾む。気持ちイイ。
「ねぇ、イイの?」
「イイよ。もっとさ」
「ん?」
「もっと見せな。全部見せろ」
 風呂場でモエを解体する時、ぽこっと出っぱったくるぶしの骨まで可愛いと思った。足の指の一本一本にキスをしながら大腿骨だいたいこつを切り離した。
「ねぇ」
 ティッシュの箱に手を伸ばす俺にモエが言う。
「こういうのってイイね。なんかナマモノっぽい感じ?」
 尻を高く突き出してクスクス笑うこの女はナマモノじゃない。死んじまった。俺がこの手で殺したんだ。ひでぇよな。


「お前、何で死んだんだよ」
「そんなこと言ったって」
「何で生きてないんだよぉ」
「もう、そんなワガママばっかり」
 本当に困った人ね、って顔をする。モエは自分がどうしようもなくガキのクセして、俺の事をガキ扱いにしやがるんだ。昔から。
「もう死んでるからそう思うのよ。きっと生きていたらさ、また殺したくなるんじゃない?」
「そんなもんかな?」
「そんなものよ」
 そう言って、クフンと笑ったモエが堪らない程愛しくて。俺は確かにもう一度、この女を「コロシタイ」と思っている。

 END--------------------------  殺した女




■■後書き

 果敢にも某所に投稿致しました末、見事に玉砕したシロモノです (^^;。
 1000文字以内という字数制限有りにて、とにかく短いのが特徴でしょうか。
 機会があれば、多少設定を弄った上で、もそっと長めに書き直してみたいお話しであります。


宇苅つい拝

タイトル写真素材:【m-style】



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