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 TOP小説ゲスト様の華麗なる世界>01

「ゆき」    みさ さま

寒い
雪の降る中をそんなことを唱えながらあたしは歩いていた。
「今日ぐらい休講にすればぁ。」
自主休講を決め込んでいる友人の声が頭によみがえる。
それが出来るんだったら苦労はしないんだよ。
持って生まれた性分なのか、変なところで真面目すぎる自分を今日ばかりは恨めしかった。

来るときにはここまで雪は降っていなかった。
 あまり雪の降らないところの出身のあたしは、雪を甘く見ていたのかも知れない。靴には雪がこびりついて歩きにくいし、買ったばかりの白いコートも裾には泥はねしているに違いない。帰ってからの手入れを思うと憂鬱になる。
 「牛乳切れてたんだ。」
その上思い出さなくてもいいようなことを思い出してしまう。帰り着いてから思い出したのなら諦めるが、少しの回り道で手にはいると思うとつい進路を変更してしまう。

スーパーへ向かう角を曲がると、タイミング悪く信号が点滅してしまう。いつもなら走り出すがこの雪では諦める方が無難だろう。
 「やだなぁ。」
思わずそんな言葉が突いて出る。肩についた雪を払って、ふっと息を吐いた途端目の中に紅い物が飛びこんできた。

 「なに?」
信号の赤ではないことだけは確かだ。よく見ると横断歩道の向こうに誰かが立っている。その人の何かが紅い。
青に信号が変わってあたしはゆっくりと車道に踏み出す。ここで転びでもしたら辛いことになってしまう。誰かと赤も近づいてくる。

 「これ、あげます。」
いきなり見ず知らずの女から横断歩道の途中で言われてもおいそれと受け取るわけにはいかない。
 信号もまた点滅を始めている。あたしはその女を振りきるように横断歩道を渡ろうとする。

 「これが可哀想だから。」
 もう一度女の声が聞こえてあたしの手に赤を押しつけていく。振り返ると女はもう向こう側へと渡っていた。

 「これが可哀想?」
 あたしの手の中には10本のバラの花束が残っていた。ちゃんとリボンまでつけられたそれは誰かからの贈り物みたいに見えた。
 「棄てるのはもったいないね。」
 ふっと息を吐いてあたしはありがたく頂戴することにした。
 牛乳とバラを持って歩くあたしはかなり妙な物に見えたに違いない。

作者サマからの一言

久しぶりの女の子なので妙に疲れたぞ。ぴーしゅけの赤と白に対抗してみただけだったりしてね。これはぴーしゅけへのプレゼントなので煮て食おうと、焼いて食おうと自由です。






「チョコレート」    みさ さま

積もっていた雪がすっかり消えてもまだまだ風は冷たかった。
講義が終わって外へ出たあたしは思わずため息を付いてしまった。校舎の中は暖房が効いているから余計に寒く感じられる。しかも、このまま帰ってもあたしの部屋にはコタツ以外の暖房器具がないのだ。部屋も外と変わらない温度のはずだ。

 「どうしようかな。」
 呟きながらあたしは携帯電話の待ち受け画面を覗いた。4時半と言う時間はそれなりに中途半端だ。
 「行こ。」

 あたしは自分の部屋とは反対の方向へと歩き出した。随分と久しぶりに友人を
訪ねることにしたのだった。
 取り出していた携帯をカバンの中に戻す。電話で確認しなくても、こんな寒い日に彼女が外へ出るなんてあり得ない。いなければいないでかまわなかった。どうせここから歩いて5分もかからない。

 何より彼女の部屋にはファンヒーターがある。ほとんど外と変わらない自分の部屋に帰るより暖かいはずだ。運が良ければコーヒーの1杯ぐらい飲めるかも知れない。
 ピンポーン
 「開いてる。」
 「不用心だね。」
 中から聞こえて声に答えながら、あたしはドアを開けた。玄関から続くキッチンで彼女はコーヒーを煎れていた。

 「こんな寒い日に出歩くの、あんたぐらいだよ。」
 言いながら彼女はカップをもう1つ出している。何も言わなくてもあたしが飲むと思っているようだ。
 「仕方ないよ。今日の講義、休めないんだから。」
 「あんたの所、厳しいからね。」

 彼女がコーヒーを持ってきてくれる頃には、コートも脱いであたしは自分の指定席と化している場所でくつろいでいた。
 「砂糖とミルクは自分で。」
 「今日はなしでいい。」
 「珍しい。」
 「これあるから。」

 あたしはカバンのポケットから包みを取り出す。
 「それってチョコレート?」
 「だよ。」
 呆れたように聞いてくる彼女に頷いてみせる。
 「なんでまた?」
 「くれたから。」
 「どうして?」
  聞きたくなるのもわかる。なにしろその包みはいかにもバレンタインデー用のラッピングなのだ。そして今日は15日。
 「渡しそこなったんだって。」
 「ふぅん。」

1日過ぎでも、渡しそこねでも中身がチョコレートであることには変わりがない。甘い物好きのあたしはありがたく頂戴することにしたのだった。
 「あんた、よく貰うね。」
 「そうかな。」
 「あれも貰ったんだよね。」

 彼女が部屋の天井を指さす。その先に何があるのか見なくてもわかる。
 「で、何で貰ったらうちに持ってくるの?」
 「さぁ。」
 わたしの答えに、紅いバラの花束のドライフラワーがぶら下がっているのを見
ながら彼女が大きなため息を付いた。



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