さくらばわくらば
「 11.河童 」
おっしょさんが、先日行き損ねた河童の宴に行きましょうと誘ってくれた。「手土産は今日の宴の性質上、大仰でも障りがあるのでカッパ巻きを用意しておいてください。新香巻きも喜ばれます」とのことだったので、取り急ぎ十人前ばかり用意した。
おっしょさんはいつものように提灯を片手に現れた。女連れであった。女は濡れたような射干玉の髪をしていた。背が低いことを勘定に入れても大層美しい人だった。
「今夜は河童の縁者が道案内をしてくれます。迷うことはないでしょう」
そう女を紹介する。「こんばんは」と挨拶をするともじもじとお辞儀をした。
「このお上さんは人間に恋して嫁いだのです。人の世の名は恋子さんと仰います」
三人で河童川に沿って歩く。
「河童は人に恋をすると、長婆
それは想像もつかない苦痛だという。その時叫び通すので、声を失ってしまうのだと。
わたしはその苦痛を思う。そんな苦労をして嫁いでも、ひと言も愛の言葉を囁けないなんて。辛さも一入
「まるで人魚姫のようですね」
「そうですよ。あれは河童の伝説が西洋に渡った形なのです。昔は西洋に嫁いだ河童も居たのです」
わたしは驚く。
「じゃあ、悲恋にして、泡となって消えるというのは」それも伝説に残した哀れな河童が居るのだろうか。
「ああ、そのときは」
おっしょさんは言葉を切る。
「お相手の尻子玉
恋子さんが細い右手を上げて、何かを掴み込むようにきゅっと握った。恋子さんは微笑んでいた。まるで今しがたやり終えましたというような笑みだった。
タイトル写真素材:【clef】
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