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さくらばわくらば
「 09.午睡 」
さくらばわくらば

「……ああ」
 彼の部屋。差し込む日差しが和やかで薄くまどろんでいた時の事だ。隣に横たわる彼が小さく呟いた。
「こんなところに中指が」
 彼ったら妙な寝言を言ってらぁ……と思う。なんとなく脳裏に情景が浮かんだ。
 野っぱらの中に細く長く伸びる舗装もされていない田舎道。その道の途中で彼が中腰になって地面を見ている。彼の目線の先には中指。地面に這いつくばるようにして生えた小さなタンポポの横で、小石と混ざるようにして一本ぽろんと落ちている。傍にアリンコがにじっている。空は青空。なんか平和だ。牧歌的だ……。

と、そこで。
ちょっと待てよ、とわたしは我に返る。きっぱりはっきり目が覚めた。思わず隣で眠る彼の顔を伺い見る。太平楽な顔して寝ていなさるこの彼氏、一体全体どーゆー夢をみているのだ?

 もう一度、よくよく推考してみる。
「こんなところに中指が」と彼は言った。
「こんなところ」がわたしが思ったように野中の一本道か、はたまたタンスの引き出しの中か、その辺は全くの謎である。でも、「こんなところに」というからには、ちょっと意外な場所なのだろう。中指がぽつねんとあっても意外でない場所、というのが実際のトコあるのかどうかはワカランが。どこに在っても意外この上ないだろうとも思うが、でも、彼のつぶやき加減からして、超びっくり奇想天外な場所というワケでもないらしい。
 そして「中指が」という台詞。わざわざ「中指」限定なのが解せぬ。中指、というからには中指のみ単体でその場にあるということであろう。手が付いていれば、「ああ、こんなところに手が」と言う筈だ。人間ってのはそういうものだ。
 はてさて、更に解せぬ。指が一本落ちていて、どうしてそれをぱっと見に「中指」と断定できるのか? 親指や小指ならなんとなく単体であってもそれと分かる気はするが、中指、人差し指、薬指。この区別は難しかろうに。

 想像してみる。
 夢の中、彼は田舎道を歩いている。ふと気づくといつの間にか指がない。「ありゃ、しまった」と、今来た道を振り返れば道のそこここに指がある。来た道を辿って指を回収して歩く。小指、親指、人差し指……。順当に回収されていく指達の中で何故か一番背高ノッポの中指だけが見あたらぬ。キョロキョロと辺りを見回す。タンポポの葉陰でかくれんぼをするようにある指。「ココだよ」とクスクス笑っている。
「……ああ」
 と、声が漏れる。にっこりと微笑む夫。
「こんなところに中指が」

 イイな、と思う。もうちょいひねれば狐のおっしょさんも登場してきそうだ。「指を落とすなんて、あなたはふつつかですね」なんて言われたりして。楽しい。
 しばらくして目覚めた彼に寝言のことを尋ねてみたが、案の定、全く夢の内容など覚えてやしないのであった。うつつの世はつまらない。



※作者注:この掌編は2006年3月22日の日記を原案にしています。

タイトル写真素材:【clef】

 END--------------------------  09.午睡






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