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「私見・源氏物語01」
こうして、源氏の君は産まれなさった

■■1桐壺、大志を抱く

 ある美しいお姫様が内裏だいり(宮殿)に入られました。
 名を「桐壺きりつぼ更衣こうい(後宮のOL職の1つ)」と申し上げます。(以降、桐壺)

 桐壺は、それはそれは美しい方でございましたが、あな、哀しきかな。おビンボーさんでございました。家柄からすれば、なかなかのものでございますのに、父君である大納言だいなごんが早くに亡くなった為、確たる後ろ盾がなかったのでございます。

 ビンボー人に世間の風は冷たい……

「ほら、ごらんなさいな。あの方が今度新しく入られた桐壺さんよ」
「あら、そうなの。ふ〜〜ん」
「ねえねえ、見て見て、あのご衣裳」
「まあ、なんて安っぽいきぬ!ダサダサ〜」
「イケテナイわね〜〜〜〜」

 桐壺のたぐい稀なる美しさへの嫉妬もあったのでございましょう。
 女御にょうご(後宮のOL職の1つ。更衣よりも偉いんだ)以下、内裏だいりの女達はことごとく、桐壺に対して辛く当たるのでございました。


 そんな悲しい境遇にある桐壺ではございましたが、彼女には心ひそかに抱く夢がありました。それは、誰か金持ちの公達きんだち(貴族のボンボンども)に見初められ、あわよくば結婚したい!というものでございます。
 儚げ・可憐系美少女である自分の顔立ちが、いかに殿方の「守ってやりたい」心をくすぐるか。桐壺はそれをよくよく承知していたのでございました。

「更衣のお仕事なんか、所詮<腰掛け>よ。玉の輿の口を見つけたら、こんなクサレ職場、さっさと寿退社してやるわ!」


 ガールズ・ビー・アンビシャス。少女よ、大志を抱け!
 桐壺はイイ男が見つかる日を夢見て、今日も頑張るのでございました。

■■2出会いはいつも突然に

 ある夜のことです。
 桐壺はいたずらなネコが庭の木枝に引っ掛けてしまった衣を取るために庭へ出ることになりました。無理やりに他の女御たちに言いつけられたのです。はっきり言って、これはイジメでございます。

 風が強く、木々がごうごうとざわめきます。
 滅多に外に出ることもない姫君がただ一人で出歩くには、夜の御所は恐ろしすぎました。
 風にうごめく木々の影は、まるで魔物のようで、今にも桐壺に襲い掛かってきそうな気がいたします。

「ちょっとぉ〜、これって、マジ、ヤバくない?」
 桐壺は泣きたくなりました。



「おや…珍しい。羽衣を忘れた天女と見ゆる」
「ひっっ!!」
 突然響いた声に、桐壺は飛び上がりました。足元までかかるご自慢の、長く艶やかな黒髪が、一瞬ばっと逆立ちました。随分長いトサカです。

「ははは…そう驚かれなくてもよい。どれ。わたしが衣を取ってあげましょう」
 声は男のものでありました。

 この時代、高貴な女性は異性に対して、むやみに顔を晒してはなりません。幾ら容姿に自信があっても、ダメなものはダメなのです。
 桐壺も当然、貴族のたしなみとして、その顔を袖で覆って隠しました。

 しかし、時すでに遅し。
 男はとうに桐壺の美しい顔をバッチリ見てしまっていたのでございました。

「今宵の月は格別に美しいが、それにもまして、あなたは美しい。
  まるで天女のようだ。羽衣をまとえば、たちまち天へ帰ってしまいそうだ…」
「そんな…わたくし…」
「あなたが天女なら、わたしは月読つくよみ(月の精)です。月に顔を見られたからといって、恥じることはありませんよ」

 なんてキザなセリフをはく男でしょう!誰が天女だって?誰が月の精だって??
 桐壺はあきれてしまいました。
「衣を取って頂いて、ありがとうございました。じゃ!」

 こんなアホはきっと貧乏公家の出に違いないわ。書物を買うお金もないから、ビンボー人ってみ〜んなバカなのよ。
 自分の家の貧困ぶりは棚に上げて、桐壺はそう思いました。

 こんなイカレタ公達と関わり合いになった、なんて噂がたったら、わたくしの経歴にキズがついちゃうわ。玉の輿に乗れなくなっちゃう。あ〜クワバラクワバラ……

 桐壺は、お礼もそこそこに、一目散に逃げ出したのでありました。

■■3見初められたのネ

 さて、それから数日。
 ビンボー公家の娘ゆえに、折角内裏に住んではいても、ちっとも華やいだご様子のなかった桐壺のお部屋に、一つのエポックが訪れました。

 そりゃあもう、立派な貝のお道具が、匿名希望で届けられたのでございます。
「ちょっと、ナニ?これ?すっごいオシャレ〜。わたくし、こんなの初めて触ったぁ〜」
「きゃっ!ココ見て見て。ここに貼ってあるのって、もしかして金箔?わ!螺鈿らでんの細工まで入ってるぅ〜」

 わーい、わーい。

 桐壺の大きな美しい瞳に¥マーク(平安時代の通貨は知らん)が浮かびます。
 金に目がくらんでいるその間にも、毎日、毎日、どんどん、どんどん、高価な贈り物の数々が桐壺の元へと届けられます。

「こんなに高価な品々を、まあ、本当に沢山…てんこ盛りで……」
「いずこの公達が姫様をお見初めになられたのでございましょう?」
 お付きの女房(召使の女)達も、流石にいぶかしんでおります。


 もしかしたら……

 桐壺には思い当たるふしがございました。
 ……っと申しますか、たったおひとかたしか該当するホンボシが居ないんでございます。

 あの月読のかた…きっとそうなのだわ。
  あの方がわたくしに……

「嗚呼…どうしよう」 桐壺は、その白く細いお手で顔を覆いました。


「しまった〜。金持ちだったんだぁ〜あのアホ男……」

■■4見初めちゃったのヨ


 この世とは小説よりも奇なるもの。

 あのキザったらしい月読野郎は、そんじょそこらの金持ちじゃない。
 なんとなんと。主上おかみだったのでございます。
 天皇っスよ。テ・ン・ノ・ウ・。世も末ですね。

 更に、世も末なことに、主上は、あの夜偶然出会った桐壺の美しさにゾッコン、メロメロでありました。

「ああ…わたしの天女…美しいひと
  わたしに顔を見られたことを恥ずかしがって、そそくさとお逃げになってしまわれた…
  あの奥ゆかしさが、またいとおしい」
 桐壺が、あの折りに、「ケッ、キザ野郎!」なぞと思っていたなんて、主上は全く考えません。

「清らかな眼差し。儚げで、可憐な口唇…
  きっと、あの方のお心がそのままお顔立ちに表れたものに違いない」

 時は平安。まだ遺伝子のイの字も知られていない遥か昔でございます。主上はお気の毒なことに外見と内面は、必ずしも正比例するものではない、ということをご存知なかったのでございました。

「そんな純真無垢な桐壺は、内裏でひどいイジメにあっているという。ああ…なんと可愛そうなことだろう…諸行無常な世の中よ」

 人間、第一印象が肝心だとは申しますが、ここまで第一印象を増幅させてしまう方も珍しゅうございましょう。

「ああ…それなのに、主上たるわたしの立場では、表だって桐壺にこの愛を告げることは出来ないのだ。せめて、プレゼントの品々であのひとをお慰めするしか…」

 そのプレゼント代が、全て国民の血税で賄われていることなど、さすがは主上。天上人。全く歯牙にもかけません。



「しかし、どうだろう?決して名を告げることなく、一公達として、桐壺の元へ通ってみては……そうすれば、弘キ殿こきでんの女御にはバレないかも……」

 実は主上には、既に奥さんが居たのです。
 いえ、この当時の貴族は、モチロン沢山の愛人を持っちゃって構わなかっのでございますよ。ですが、この主上が口に致しました弘キ殿の女御というお方、そりゃあスゴイやきもち焼きでございまして、キーーーーッ!!とひとたびヒステリーを起こしたら、もう誰も止められないのでございます。

 また、この弘キ殿の女御が、今をときめく右大臣家の姫君で、その上、皇子(つまりは主上の息子だね)もお生みまいらせた、末は国母こくも(天皇の母)にもなろうや、というお方。

 今上きんじょう(在位中の天皇)とは申せ、所詮政治の世界は派閥が大事。長いものには巻かれとけ。でないと首を締められる……これは今も昔もなんら変わるところはないのでありました。


 今も昔も変わりない……と申せば、もう1つ。
「そうだよなー。一公達としてなら、桐壺ちゃんと、ムフフの密会も出来るかも……
  ムフ、ムフ、ムフフフフ……」

 男のスケベ心にも、時間の壁はなかったのでございます。

■■5あらバレたのねぇ〜〜〜

 時を経ずして。桐壺の元へ夜な夜な通い詰める謎の公達の姿が、人の口端(噂)にのぼるようになりました。

「ねえねえ、知ってる?桐壺のところにさ、最近男が通ってんの」
「ああ、あの貧乏人の桐壺ね。きっと通ってる男もドびんぼーな奴なんじゃないのー?」
「それがさあ、この前ちらっと見ちゃったんだけどー。あれは多分……クックック」
「ちょっと、ナニよぅ。意味シンねぇ〜」

「誰にもナイショよぉ」
「ナイショ、ナイショ。約束げんまん」
「あーのーねー……ゴニョゴニョゴニョ…」
「えーーーーーっっ!うっそーーーーー!!!」

 ナイショの話は、「ナイショよん♪」を合言葉に宮中狭しと、どんどん広まっていきました。
 そして、当然のごとく、弘キ殿の女御も、知るところと相成ったのでございます。


「キ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 弘キ殿の女御はお怒りになりました。怒髪天に突かれました。
「貧乏公家の娘のクセして、わたくしの主上に手を出すなんて、なんて薄汚い泥棒ネコなのかしら!許せないわ!!絶対、絶対、許さないんだから〜〜〜〜〜!!!」


 さて、これを知って、慌てたのは主上です。
「ああ、何たること。あんなに秘密にしていたのに、こんなに簡単にバレるとは……」

 幾ら秘密裏に通っておいでだったとは申せ、内裏の中は内裏の中。幾ら宮中が広くても、所詮は<一つ屋根の下(ちょっと違うけども)>での出来事なのです。
 しかも、夜な夜な通い詰め。これでバレないと思う方が、本来間違っておりましょう。

 やはり、桐壺の第一印象通り、主上は少しおバカさんだったらしゅうございます。

■■6窮する恋人たち

「どうしたものか……どうしたものか……」
 動物園のクマさながらに、部屋の中を行ったり来たり、うろうろして、ただうろたえるばかりの主上。

 それを横目にしながら、桐壺は涙にくれておりました。
 だって、知らなかったのです。桐壺は夜な夜な訪れる公達を、ただの<とってもお金持ちのおバカさん>としか思っていなかったのでございます。

 名も明かさないような怪しげな殿方に身を任せるなんて……と眉をひそめる方もいらっしゃいましょうが、大体、内裏に足を踏み入れることが許される者は、一応名の通った貴族であることは確かなのです。しかも、あのてんこ盛りのプレゼントの数々。

 名のある貴族にして、大金持ち!
 ほら、桐壺の大志を叶えてくれるに足るお方ではございませんか!!
 しかも、ちょっとおバカさん。
 夫にするなら、少し抜けてる殿方が良い。その方が結婚後の操縦がラク♪
 桐壺は母である尼君から、常々そう教えられていたのでございます。



「嗚呼…あなたが主上だなんて……どうして最初からそうとおっしゃっては下さらなかったのです?知っておりましたなら、わたくし……わたくし……」
「う。あの…それはだね……」

 主上は狼狽されました。有体に言えば、主上と名乗ったとたん、逃げられるから!に決まっています。散々高額のプレゼントを贈った挙句、ムフフもなしに桐壺に逃げられてしまうのは嫌だったのでございます。

 しかし、それを正直に言うわけにも参りますまい。

「あなたをこんな風に苦しめたくはなかったのだ。身分を明かさぬ方があなたの御為おんためだと思っていたのだよ。だが、それすら叶わぬ現身うつしみのわたしだ……」
「ああ…主上。わたくしはこれから、どうすればよいのです?このようなことになりました上は、もう主上にもお目にはかかれますまい……きっとここにも、居られません」

 か細い肩を震わせて、泣き咽ぶ桐壺を見ていると、主上の胸にも、桐壺への愛おしさがこみ上げてくるのでありました。

「ああ、桐壺。愛しい人。どうしてあなたと離れられよう!あなたとふたりでならば、わたしはどんな苦難にも立ち向かってみせる!!」
「主上!!ああ…」


 …………盛り上がってますね。
 まあ、実際のところ、盛り上がって開き直るしか手はなかったのでございます。

 今上と呼ばれながらも、今ひとつ臣下であるはずの右大臣勢力に押されがちなみかどと、既に帝のお手つき。今更よそに嫁入り口を探すのもはばかられる桐壺。

 既にさいの目は振られたのです。開き直るしかありません。
主上と桐壺。おふたりは、この時、世間の荒波への果敢なる挑戦をする覚悟をお決めになったのでございます。愛という名のもとに……。

■■7えげつない妨害

 開き直った主上と桐壺は、もう公然とイチャイチャすることに致しました。
「き〜り〜つ〜ぼ〜ちゃん♪」
「な〜に?お・か・み・」
「なんでもな〜い。ただ、呼んでみただけぇ〜」
「もう、やっだぁ〜主上ったらぁ〜ん」
 うっふ〜〜〜ん♪

 いやはや。まぶしいばかりのご寵愛ぶりでございます。


 モチロン、クソ面白くないのは、言わずと知れた弘キ殿の女御。
 キ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!みていらっしゃい!!!

 嫉妬に狂った女とはなんと恐ろしいものでございましょう。弘キ殿の女御は、桐壺が主上のおいでになる清涼殿へ行く時の通り道に、なんと汚物を撒いたのでございます。

「いや〜〜〜ん。クッサ〜〜〜ッ!これじゃあ通れない〜〜〜!!
  わたくし、主上に呼ばれてるのにぃ〜〜〜」
 桐壺は泣き出してしまわれました。

「ほほほ…いい気味だこと。立ち往生しているわ」
 1番イイ迷惑なのは、多分掃除をさせられる下働きの者達でしょう。全く、後の始末も考えない、心なげな振る舞いも、あったもんです。

 怒りに我を失ったとは言え、貴族の姫君でありながら、肥桶担いで、汚物を撒き散らす。
 そんなキチャナイことを平気でやってしまう女性に、帝のお心が戻る、とでもホンキで信じていらっしゃるのでしょうか?

 弘キ殿の女御も、実はけっこうなおバカさんだったのかも知れません。

■■8やっとこさだよ。ご懐妊♪

 弘キ殿の女御の汚物攻撃にもメゲず、反対にそれをバネとして、主上と桐壺。おふたりはちゃくちゃくと愛を育まれてゆきました。愛とはおかしなもので、障害が大きければ大きいほどに熱く燃え上がるものなのでございます。ロミオとジュリエットざあますね。

 これがホントのクサイ仲。そう言って、主上がお笑いになったとか、ならなかったとか……


 そんな、日々の中、主上に朗報がもたらされました。愛しい桐壺が「おめでた」だと言うのです。
「ヤッホー♪やったね、HAPPY〜!!!」 帝は殊のほかお喜びです。

 弘キ殿の女御が、例によって、
「子ども〜死ね〜〜ク〜タ〜バ〜レ〜〜〜!!!」っと、呪いの加持祈祷なぞ致しておりましたようですが、十月十日後、玉のような男御子がお生まれになりました。

 後のお名を源氏の君。光源氏と賞される、この物語の主人公であらせられます。
 ああ…やっと主人公が生まれなさった……。


 END--------------------------  私見・源氏物語 其の一






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