小鳥の独白 作・みゅう |
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ベッドにぺたんと座り込んで。
枕を抱きしめるように抱え込んで。
小鳥は大きくため息をついた。
身体の空気が全部抜けて体重が少し軽くなるんじゃないかと思うほど大きくて深いため息だった。
あのバカが曜日を間違えていなければ、今頃はライブを満喫したあとだったはずなのに。
すっごくすっごく行きたかったのに。
行けるはずだったのに。
それが残念でたまらないからため息をついたのだと、そう思うことにする。
その「そう思うことにする」という時点ですでに「そうではない」と認めていることになるのだと、あまり論理的思考が得意ではない小鳥でさえ気付かずにはいられない真実に彼女はもう一度ため息をついた。
女という生き物は、誰でも恋に恋する少女の時代を過ごしてくる。
小鳥にだってもちろんそんな時代があった。
白馬に乗った王子様が現れるのを待つだけの幼いものから、もう少し具体的にシチュエーションを思い描くようになり、年を重ねるごとにその内容は現実的になっていったけれど。
例えば。
駅前で待ち合わせて映画を見に行って、その後は喫茶店に入ってお茶を飲みながら今見た映画の感想を話し合うとか。
街をそぞろ歩きながらウィンドウショッピングをして、安物のアクセサリーを「これ、カワイ〜♪」とねだって買ってもらったりとか。
あるいは。
テーマパークで絶叫アトラクションに悲鳴をあげたりしながら朝から晩まで遊び倒して、夜の花火を寄り添って見上げるとか。
お弁当を作って……料理は苦手だけどサンドイッチくらいならなんとかなると思うから……少し遠出をするとか。
もっとささやかに。
そこら辺のホットドッグスタンドで買ったホットドッグとコーヒーを持って、そこら辺の公園のベンチで他愛のない会話をしながら食べるだけでもいい。
そんな風なヴィジョンはいくつもあって、それは充分実現可能なはずだった。
そんな恋愛をするのだと思っていた。
間違っても。
ほぼ同居に近いような形で生活をしてたり。当たり前のようにカゴに入っている汗臭
いパジャマを洗濯したり。部屋に貼ってあるグラマラス美女のポスターを剥がしたり。
そんな恋愛の仕方は想定してこなかった。
こんなの違う、と、心の底から思うのに。
ぽてっ。
小鳥は座ったままの体勢から枕を抱えたまま横に転がった。
憎めない。
今頃、しょげかえってるんだろうな。どうやって自分の機嫌をとろうかと、あれこれ思い悩んでいるんだろうな。
そう思うと笑ってしまう。
こんなお約束的なまぬけなボケでオチをつけてくれる無精髭男を、自分はもう許してる。
でも悔しいからしばらくは怒っているフリをしよう。
とりあえず明日の朝は目も合わさないし口もきいてやらない。どうせ自分のことだから、そんな素振りも長くは続かないだろうけれど。
少なくとも明日一日くらいはやきもきさせてやるんだ。そしてそれでおあいこにしてやろう。
そう思ったらちょっと気持ちが落ち着いた。
-end-
--サンクス--
みゅうさん:言ノ葉茶亭
本編13話「だらしのない男」の後日談。二階に引き籠もった小鳥のその後のお話しです。
みゅうさん、ありがとー。こんな可愛らしい小鳥ちゃんが、私も、ウチの読者さんも見たかったんですよ。
作者が乙女の心情を書けないヘボなので、貴女が代わりに書いて下さったのねーvvvv
本編で小鳥とダグラスの恋の行方にヤキモキされている読者様。
こちらをお読みになられて、どうぞ溜飲を下げて下さい。