幸福童話: 金の斧銀の斧編 作・宇苅つい |
■1幕
あるうららかに晴れた日の昼下がり。
小鳥ちゃんとダグラス刑事は、二人揃って森の中をお散歩しておりました。
森の中には鳥が歌い、野バラも咲きほころび、とても美しい景色です。
心も自然と弾みます。なんつーか、良いムードです。
ダグラス刑事は、思いました。
よしよし。ここらで一丁、愛の告白。再挑戦だ。
「こ、こ、ここここここ小鳥」
「……人の名前、ニワトリみたいに呼ばないでよ」
ダグラス刑事は、これはイカンと思いました。前回の告白でも意識しすぎて、舞い上がってしまって大失敗をしたのです。丁度、泉のほとりに差し掛かりました。ここは冷たい清水でも飲んで、心を落ち着けるべきでしょう。
しかし、既に舞い上がれるだけ舞い上がっていたダグラスは、岸辺の小石につまずいて、そのはずみで小鳥ちゃんを突き飛ばし、泉の中へ落としてしまったのです。ドッザッパーンと高い水しぶきが上がりました。
……ああ、救い難きドジ刑事。
■
「うわ〜 小鳥〜〜〜、大丈夫か、返事をしろ〜〜〜っっ!!!」
慌てて水底を覗き込むダグラスの前に現われたのは、森の泉の神さまでした。
「ふぉっふぉっふぉ。こりゃ、何をぎゃんぎゃん騒いどる?」
……何処かで見たことのある老獪爺いにクリソツですが、現在、それを四の五の言ってて良い事態ではありません。
「神さま、頼む、俺の小鳥を返してくれ!」
まあ、返してやらんでもないが。そう泉の神様は仰いました。
「おまえさんが落としたのは、ナイスバディでお色気むんむんギャルの小鳥ちゃんかの? それとも、清楚でおしとやかで儚げな聖少女の小鳥ちゃんかの?」
「……」
それは、既に「小鳥」と呼べる女の子ではナイだろう?
と、ダグラス刑事は思いました。
「どっちでもねぇよ、小鳥は小鳥だ。さっさと返しやがれ、クソ爺い、反抗するとしょっぴくぞ!」
泉の神様は、さも楽しげにお笑いになりました。
「ふぉっふぉっふぉ、お前さんは正直者じゃ。ご褒美にムチムチ小鳥ちゃんと可憐な小鳥ちゃんと普通の小鳥ちゃんをやるからの」
「そんなに居るか〜〜〜! ってか、そんなに大勢、俺の薄給で養えるか〜!!!」
その後、三人の小鳥ちゃんに囲まれたダグラス刑事がどうなったか、なんて、知りません。
■2幕
後日。
同じ森の中を、朱里さんと白野くんがてくてく歩いておりました。
朱里さんは、不思議な泉の話を耳にしたのです。それでこの森に来たのです。当然ながら、あーして、こーして、あわよくば。三体の個性豊かなる白野くんをセットでお持ち帰りしたい、などと目論んでいたりするようです。その後にあーしたり、こーしたり、どーしたいのかは、作者にすら計り知れぬ事柄ですガ……。
「ねぇ、朱里。さっきから何をニヤニヤしているの?」
「いえ、別に」
「なーんか、企んでいるンでしょ?」
「そんな人聞きの悪いことを。……ああ、白野様。泉が見えて参りましたよ」
巧みに話が逸らされます。
「わー、朱里が言ってた通り、とても綺麗な所だね」
二人は泉に近づきました。すると、どうでしょう。ナーニを勢い余ったのやら、木の根っこに蹴つまずいた朱里さんが、泉の中にもんどり打って落ちてしまったではありませんか。唐突な展開ですみません。
ドッザッパーンと派手な水しぶきが上がりました。
「……うわぁ、朱里のドジって珍しいなぁ」
白野くんはしみじみと、つぶやきました。
「これは作者の愛かなぁ、それとも呪いなのかなぁ?」
首を捻って悩んでいると、そこへ現われたのが、やっぱりこの人。
「……こらこら、落ち着いて傍観しとってはいかんじゃろうが、白野クン」
「あ、泉の神さまだ」
「ふぉっふぉっふぉ。さて、質問じゃ。お前さんがこの泉に落としたのは、はてさて、『悪の朱里』かの? それとも『善の朱里』かのぉ?」 神様がお訊ねになりました。
■
「悪の朱里!」
そう白野くんは答えました。即答でした。即決でした。その目には一分の迷いすらありません。
「……えーっと、ホントにソレでエエんかの?」
「うん♪」
白野くんは「悪の朱里」一体を神様から受け取ると、にこにこ顔でおうちに帰って行きました。
こうして。
「善の朱里」は、人々の目に触れることもなく、儚くも、泉の底深くに沈んだまま朽ち果ててしまったと言うことです。合掌。
……ってか、「普通の朱里」って居ないんカ?
--キャスティング--
泉の神様=セント伯爵
他、なんやもろもろ