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幸福童話: 白雪姫編


作・宇苅つい


■第一幕

 ここは、とある小国のとあるお城。その奥深くにて、お妃様が魔法の鏡に問いかけております。
「鏡よ鏡。世界で一番可愛らしいのはだぁれ?」
 『それは、白雪姫です』
「何ですってぇ、キーッ!!!」
 怒ったお妃様は、白雪姫を殺してしまおうと企むのです。 ……ちょいと展開早いケド、みんな知ってる話だろ? ちゃんと付いてくるんだぜ。

 理不尽な理由にて殺されることになってしまった白雪姫は、お妃様にイチオウの文句を言ってみました。
「僕を殺しちゃうの? 非道いなぁ、小鳥ちゃん。……じゃなかった、お義母さま」
「だってだって、紅一点のわたしよりも『可愛い』だなんて、そんなの乙女心が傷ついちゃいます。白野様が悪いんですぅ〜」
 大体、何で毎回毎回、わたしってば母親役なんですかぁ〜? 白野様は可愛い役どころばっかりでズルいですよぉ。
 涙ながらに訴えられて、白野、もとい、白雪姫は小さなため息をつきました。そういう不満は作者に言うべき問題ですが、直情思考の小鳥には説明しても通じなさそうです。げに怖ろしきは女心。美しさは罪〜 微笑みさえ罪〜 そんな某アニメの唄を思い出します。

「絵を描いて罪だと言われたことはあるけど、顔の造作までそう言われちゃたのは初めてだなぁ」
本当に、小鳥ちゃんはいつも新鮮な驚きを与えてくれるので、彼女の頼みなら、まあ、死んでもイイか、と思えてきました。  元々、生に執着のあるタイプでもなかったので、その辺り、淡々としたものです。

「いいよ。じゃあ、僕、森の奥にでも分け入って、野垂れて来るね。それじゃあ、さよなら、お義母さま」
「うっうっうっ…… どうか、お恨みにならないで下さいね〜」
「うん。恨んだりしないよ。台本だものね、仕方ないよ」
 台本に書いてあれば、何でもヤるんかい、白野!? なら、わし、何かものすげぇコト書いちゃうぞ、とか言う、作者の突っ込みなど何処吹く風。白雪姫は森に向かってのんびり歩き始めました。小鳥お妃様が涙ながらにレースのハンケチを振って見送ってくれました。

■第二幕

 森の奥深くで、野垂れる予定だった白雪姫を救ったのは……まあ、大方の予想通り、七人の朱里たちでした。体細胞分裂でも起こしたものか、7分の1スケールで、スタイルの良さもそのままにきちんと小人化している辺り、見事です。小人仕様の三角帽子を被っていますが、普段通りの黒装束でしたので、なんだかまるで悪魔のようです。白雪姫は思わず、三角のしっぽが生えていないかを確認してしまいました。『見えなくってもあるんだよ』そんな金子みすずの詩を捧げたくなる情景です。

「ようこそ、白雪姫」
「ようこそ」
「ようこそ」
「ようこそ」 残り×4
 七人の小人朱里に囲まれて、至れり尽くせりに世話を焼かれて、白雪姫はものすごく疲れた気分になりました。朱里のことは大好きです。ですが、流石に七人も居られてはノイローゼになりそうです。……と言うより、はっきり言ってコワイです。作者だってコワイです。なんて凶悪な人選でしょう。幾ら何でもあんまりです。

 折角作って貰ったケーキにもあまり手を付けない、困惑顔の彼に、七人の小人が一斉に訊ねます。
「どうなさいました、白野様?」×7
「……朱里が七人も居ると、壮観だな、って思って」
「掃除とか調理とか、分業出来て、便利ですよ」
「便利ですよ」×6
 いや、そういうコトじゃなく。……と言うか、自分が華々しくドッペルゲンガーしていることに、何ら疑問を抱かないのでしょうか? 流石は朱里です。かなり普通ではありません。

「それにしても、お妃様は本当に残虐非道な悪い方ですねぇ。きっと地獄に堕ちるでしょう」
「ご心配には及びませんよ。私たちが貴方様をお守り致しますからね」×7
「……うん」

 まあ、とにかく。白雪姫は、七人の朱里といっしょに暮らすことになったのでした。

■第三幕

 さて、こちらは、お城のお妃様。
「鏡よ鏡。世界で一番可愛らしいのはだぁれ?」
 『それは、森の小人の家に匿われている白雪姫です』
「何ですってぇ、キーッ!!!」
 もう、白野様ってば、死んでくれるって約束して下さったのにぃ、嘘つき〜!
 かなり無茶な言いがかりですが、ここは台本上、致し方がありません。小鳥お妃様は、ハゲシク逆上してしまいました。毒リンゴを持って、自ら白雪姫暗殺に向かうのでした。

 苦手な朱里小人たちが全員出払っているのを見計らって、リンゴ売りに変装したお妃様は、白雪姫にリンゴを差し出します。
「ありがとう。僕、リンゴ大好きなんだ」
 毒リンゴとも知らずに、嬉しそうに微笑む白雪姫に、多少お妃様の胸も痛みましたが、これも台本です。どうか、読者の皆さん、小鳥を許してやってクダサイ。

■第四幕

 毒リンゴを食べて、死んでしまった白雪姫を前に、七人の朱里は迅速に行動を起こしました。通りすがりの白馬に跨った王子様を問答無用でぶん殴って取り押さえると、ずるずると白雪姫の元へ引きずっていきます。
「何だ何だぁ? おいこら、チビ執事ども。何をしやがる? 俺はこれからお城の小鳥お妃に求婚しに行く所なんだぞ。人の恋路を邪魔するな〜」
「ダグラス王子……」
 朱里の目が血走っています。オドロ線をしょって、普段の数百倍の迫力です。
「ダグラス王子。白野様、いえ、白雪姫に……接吻なさい」
 言われて、ダグラスの目が点になりました。そうか、この配役だとそーゆー展開になるのか〜っっ!!!
 執事の呪い殺しそうな視線のワケが分かってしまいました。怖ろしすぎます。

「……イ、イヤだぞ。絶対イヤだ」
 プルプルと首を振って、王子は断固拒否の姿勢を示しました。王子役だなんて、珍しくカッコイイ役が回ってきたと思ったら、こんな裏があったとは。ほいほい二つ返事で引き受けた己の愚かさを後悔してもしきれません。

「私だって、甚だしく不本意ですが、白雪姫に生き返って頂く為にこの方法しかないとすれば、背に腹は代えられません。さあ、おやりなさい!」
 苦渋の決断なのでしょう。小人達の肩がふるふると震えています。低重音の声がサラウンドで重なって、ものすごーくコワイです。
「幾ら坊やのためでもそれはイヤだ! ってか、お前、キスの後、絶対俺を殺す気だろう? そうだ、そうに決まってるっっ〜!」
 例え少女と見まごう程の美少年でも、男とキスした挙げ句、理不尽な痴情の縺れに巻き込まれて殺されるのなんてご免です。ダグラス王子は必死こいて逃げようとしますが、めっきりマジな顔つきの朱里小人達がしっかと退路を阻んでいます。
「やらなくても殺しますよ」
「て、てめぇ、恐喝罪で逮捕すっぞ」
「人命救助ですよ。貴方、仮にも刑事でしょうに」
「番外で本編の設定なんか持ち出すんじゃねーよ! このクソバカ過保護執事!」
「本編設定を持ち出してるのは、お互い様です!」
 もう、ワケが分かりません。どちらも逆上しまくってます。

「さあ、さあ、さあ!」×7
「七人がかりで寄ってたかって凄むんじゃね〜〜〜っっ! オレは女の子が好きなんだ〜!!!」
 ダグラス王子の悲痛な絶叫が森の中に木霊しました。

■第五幕

「……ちょっと待て。そうだ、配役を代わろうじゃないか、なぁ執事」
 たった今から、お前が王子様で、俺が小人役だ。な、な、な?
 朱里の頭から黒い三角帽を取り上げると、ダグラスは自分の頭の上の王冠とさっさと取り替えました。三角帽は毛糸編みだったので、なんとかダグラスにも被ることが出来ましたが、王冠の大きさは小人朱里の頭も胴体も通り抜けて、地面に落ちてしまいます。カラーンと鳴る空しい音。
「わ〜、お前、その小人体型をなんとかしろ〜!」

「……なるほど。私が王子様になれば、この後の展開は……。それは気が付きませんでした。確かに妙案です、刑事」
「したり顔で頷いている場合か? その縮んでしまった体型をどーする気だ?」
「ああ、その辺りは無問題です」
 七人の小人朱里はにっこりと微笑むと、先ず、一人が一人をむんずと鷲づかみにしました。そのまま、あーんぐりと一飲みにしてしまいます。
 ごっくん、と喉の鳴る音がして、『もわぁ〜ん♪』 と、飲み込んだ朱里が、倍の大きさになりました。

「ひ〜〜〜ぇぇぇ〜〜〜っっ!!!」
 その目を疑う光景に、ダグラスは腰を抜かしてしまいました。近くの木の幹に這っていって抱きついて、ぶるぶると震えております。その間にも、小人朱里は次の朱里を飲み込み、更に飲み込み、とうとう六人を丸飲みにして、元の大きさに戻りました。地面に落ちた王冠を拾い上げると、埃を払って、自分の頭に載せます。
 凛々しい長身の王子様の出来上がりです。

「それでは、眠れる姫君をお起こししましょうかね」
「お、お前、イッタイ何者だ……?」
 ダグラスの恐る恐るの質問に、朱里は微苦笑で答えました。
「さて? 作者は既に人間扱いを止めてしまったようですねぇ」
 それはちっがーう!! おい、朱里、頼むから人間で居てクレよ、せめて本編ラストまでは……。作者の願いもムナシイようです。誰かこいつを止めてくれっっ!

■第六幕

「……うーん、もう、さっきから何の騒ぎなの? ウルサイなぁ」
 そこで。目を擦り擦り、白雪姫がもぞもぞと起きあがりました。どうやら、死んでいたのではなく、ただお昼寝していただけのようです。人騒がせな少年です。
「白野様!?」
 朱里の言葉に、少年はまだ眠そうな蒼い瞳をほんの少しだけ見開きました。
「あれ? 朱里が一人しか居ない。普通の大きさに戻ってる……。小人の朱里は夢だったのかな?」
「夢だったら、良かったよなぁ〜〜〜」
 ダグラスがノイロった声で答えます。それを余計なことを言うな、とばかりに睨み付けて、朱里は白野の方に向き直りました。
「白野様、毒リンゴをお食べになったのではなかったんですか?」
 優しく訊ねられて、白野はひょいっと小首を傾げると、こう答えました。

「うん。朱里に皮を剥いて貰ってから食べようと思ったから」
 だって僕、朱里がリンゴの皮を剥いてくれるのを見ているのが、大好きなんだ。
 のほほんと微笑みます。
「……嬉しいことを仰いますね」
 朱里も口元を綻ばせました。

 結局、こいつら主従の痴話話で終わるんかいっっ!?
 ダグラスは、そう思いましたが、二人が二人の世界を作っているうちに、とっとと逃げた方が無難です。こっそりと忍び足で逃げる男の背中に、朱里がひと言こう言いました。
「刑事。貴方の役どころも、小鳥さんの所業も大変許し難いです。……首を洗って待っておいでなさい」
「ひ〜〜〜ぇぇぇ〜〜〜っっ!!!」

 ダグラスは小鳥を連れて、地の果てまで逃げていったそうです。そうして、朱里は白野の傍らでリンゴを剥いているのです。めでたし、めでたし。

-おしまい-

 --キャスティング--
朱里白野小鳥ダグラス

 白雪姫=白野
 お妃様=小鳥
 七人の小人=朱里
 王子様=ダグラス



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↑ ランキング云々とは無縁な個人仕様。小説書きの活力源です。お名前なども入れて下さると喜ぶにょ


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