199 賜死
2010年8月31日(火
読めない字があるという。母がである。
「『賜る』に『死』をつけてなんて読むかね?」
「えー、分からんけど『えきし』か『いし』?」
右の『易』の字を音読みしただけだ。とても安易だ。これくらい母でも考えよう。案の定、
「どっちでも辞書に載っとらんやった」 と却下される。
読みが分からないと紙の辞書では調べにくいよねってことで、iPhoneに入れている大辞林で直接『賜死』を検索するが載ってない。なんじゃ、死語か古語なのか? ぜんたい母よ、そんな言葉をどこで知った?
「今読みよる本に出てくるとやけどね。意味は分かるけど読みが分からん」
「ちなみに、どんなの読んでるの?」
「豊臣秀吉と千利休の……」
この両名が出て『賜る死』とくりゃあ。
「あー、うんうん。意味は分かるね」 字面からもそこはかとなく。
しかし、大辞林に載ってないのか。さればネットの出番である。流石Wikipediaだ。載っていた。
賜死 - Wikipedia
『しし』と読むんだそうですよ。そうか、相撲の賜杯の『し』なんだな。賜ることのない人生なので全く浮かびませんでした。
早速母に伝えると、
「へー『しし』?」
「うん、『しし』。意味はまんま字の如く『君主から賜っちまう死、で切腹。名誉は守られる』そうですよ」
「へー……」
母はしばらく沈黙した。そして、
「イマドキじゃないねぇ」 とのたまった。
「そうだねぇ」
イマドキでないから、もう辞書にも載ってないのだろう。押し頂いて頂戴せねばならぬ死というものを考えてみる。イマドキでなくて良かったことだ。