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030 人生の重み   父に捧ぐ…

 5年前、父が亡くなった。
 臨終の時、意識のない父の手をずっと握っていた母は、
「ああ、もう爪の色もこんなになってしまって…さよならねぇ」 と、ぽつりと言った。
その言葉に、父の指先に目を落とすと、爪の色が紫に変わっている。
 間をおかず、父の顔色がさっと白っぽく変わり、そして、そのまま逝ってしまった。

 私は、それまでお葬式に出たことは何度かあったが、「人の死」の場面に実際に立ち会ったのは、父が初めてのことだった。  人に死が訪れる寸前に、爪の色が変わる事なんて、私はちっとも知らなかった。

 母が、冷たくなっていく父の手を、ずっと擦り続けている。
 「ああ、お母さんはこれまでにも、沢山の人の死を見て来たんだな…」 と、父の死を思うより先に、何故だかそう思った。

 これまで、父と母は、二人で色んな事を経験し、そして知って来たのだろう。
 その人生の重みを垣間見たような… そんな気がした。

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